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点群・ポリゴン処理

3Dプリンター向けリバースエンジニアリング技術の適用例

昨今の3D非接触測定スキャナーの高性能化やリバースエンジニアリング技術の向上により、現物を非接触測定した点群からCAD面モデルを作成し、CAD・CAM・CAEといった後工程業務に活用することが一般化しています。
さらに、3Dプリンターを使用することで、リバースデータから簡単に現物の複製品を製作することも可能となっています。

3Dプリンターは、工業分野では試作品の作成、医療分野では手術シミュレーションなど、多岐にわたり活用されています。加えて、3Dプリンターの低価格化が進んだことで、個人でも手軽に製品を製作できるようになり、リバースエンジニアリング手法へ関心をいただける機会も多くなっています。

本テーマでは、3Dプリンター向けリバースエンジニアリング技術の適用例として、民芸品の「木彫りの象」を3D非接触測定スキャナーで測定したデータをもとに、弊社リバースエンジニアリングソフト「spScan」を使用し、3Dプリンター用の3DCAD面モデルを製作するまでの流れを紹介します。

測定したデータ(STL)をポリゴン編集して3Dプリンター用データとして適用することも可能ですが、今回は、3Dプリンターで試作品を製作後、量産金型設計に適用することも目的とし、3DCAD面モデルの作成までを行った事例としました。
以下、その実証研究レポートです。

3D非接触測定から量産金型設計までの流れ

リバースは以下の手順で実施し、所要時間は約1時間45分だった。

3D非接触測定スキャナーによる測定

アーム式レーザーTypeの3D非接触測定スキャナーにて実物の民芸品の「木彫りの象」を測定した。
測定対象の木彫りの象は、写真のような治具を使用し、底面も含めて同時に全方向の測定ができるようにセットしたが、象の足と腹部の間の形状は測定レーザーの照射が難しく、測定できていない箇所も残った。

3D非接触測定スキャナーで測定した点群データは、測定スキャナーのソフトでポリゴン化処理をし、STLフォーマットにて spScan に読み込みをした。

  • 測定物の木彫りの象のサイズ:約 205 x 105 x 310 mm
  • 非接触測定時間:約 30分
  • 3D非接触測定スキャナーのSTLデータ容量:約 268MB
  • ファセット(ポリゴン)数:約 549万個

spScan操作① ポリゴン修正

ここでは、ポリゴンデータの主な修正機能として5種類を紹介する。
ポリゴン修正状態がリバース結果の3DCAD面モデルの再現精度や面品質に大きく影響する。今回の例ではポリゴン修正時間は全工程で約60分であった。

ポリゴンの間引き

ポリゴンデータを間引き率指定により軽量化する。
操作性の向上やコマンドの処理時間短縮に効果がある。
spScanでは、曲率間引き手法を適用し、平坦部の間引は多く、凹凸形状部の間引きは少なく、なるべく形状を崩さない処理をしている。

ポリゴンの部分削除

リバース対象以外の不要なポリゴン形状を削除する。

ポリゴンのラップ修正

ポリゴンの折り重なり(ラップ)部を修正する。
ポリゴンのラップ箇所を自動で検出 → 一括削除

ポリゴンの穴埋め

ポリゴンの穴部を埋める。
3D非接触測定スキャナーでの測定時に取得できずポリゴンデータが欠落してしまった部分や、ポリゴン修正の過程で穴となった箇所の穴埋め修正をする。
ポリゴンの穴部を自動で検出 → 穴部周辺ポリゴン形状を参照し一括で穴埋め

ポリゴンの穴埋め一括削除

ポリゴン形状の凹凸など、不良部の修正をする。
不良部のポリゴンを選択→選択箇所の削除(穴あけ)→穴部周辺のポリゴン形状を参照し一括で穴埋め。

約1/3に軽量化

spScan操作② ポリゴン四辺化 自動処理:3分

修正後のポリゴンを「Quad Remesh」技術を適用し、いったん四角形リメッシュ化後、パッチ曲面作成用の分割線を作成。

spScan操作③ パッチ曲面作成 自動処理:2分

リメッシュ技術で作成した分割線からポリゴン形状に沿ったパッチ曲面を作成。

spScan操作④ 作成したパッチ曲面の確認

今回の例では、パッチ曲面数は2979面となった。
ポリゴンとパッチ分割線を非表示、曲面だけを表示して、パッチ曲面の面品質を確認。

リバース形状の再現性は、作成したパッチ曲面とポリゴンの距離を誤差カラーマップ表示にて視覚的に確認。
今回のリバース例では、形状全体の 約97%が 誤差±0.3mm以内 であった。

spScan操作⑤ 作成したパッチ曲面の加工

ポリゴン形状を再現したパッチ面では、底面に凸凹があり、角部も再現できていなかった。
そのため、底面を平面として再作成し、角部も再現した。

spScan操作⑥ 作成したパッチ曲面をCADデータとして出力

spScanでCAD面化したパッチ曲面は、CAD標準フォーマットのIGES (Type144)やIGES (Type186)、STEPとして出力が可能。
3Dプリンター用や、CAD・CAM・CAE用のデータとしても使用できる。
出力するデータフォーマットにより、データサイズが異なった。(推奨はSTEP)

パッチ面数が増え、リバースデータの容量は大きくなるが、ポリゴンとの誤差は減少し、形状の再現性が向上した。

実物サイズの 70%にスケールダウンして製作。

プリンター製品にも、シワが再現されていた。

研究担当

3Dプリンター向けリバースエンジニアリング技術の適用例

AXION事業部 営業部長 山根雅則
元国鉄職員という異色の経歴。国鉄退社後、自動車プレスの業界でプレス成形の業務(金型・製品の検査、プレス成形シミュレーション、非接触測定技術導入推進、ハイテン材成形研究、ホットプレス技術開発など)に従事。
アルモニコスの製品検査ソフト「spGauge」、リバースソフト「spScan」、マルチデータ変換ソフト「spGate」の元ユーザー。アルモニコスには2014年入社。現在は、AXION事業部営業担当マネージャーとして、仕様決めから営業、販売、講演まで幅広く担当。
最近、25年前の中古車のスズキジムニーを30万円で購入。ジムニーは今回で3台目。今回は年式が古い車なので、修理やパーツ交換が必要。ちなみに費用は車購入時の金額をはるかにオーバーして50万円弱になってしまった。ジムニーは中古パーツも多いので、ネットで出物検索をしながら、さらなるドレスアップを計画中。

3Dプリンター向けリバースエンジニアリング技術の適用例

AXION事業部 松澤和貴
2023年、(株)アルモニコス入社。入社後はClassNK-PEERLESSの技術営業に従事し、現在はspScanの技術営業を担当。
趣味はゲーム、マンガを読むこと、アニメや映画などの鑑賞、旅行など。自然や動物が好きで、実家の愛猫を溺愛している。フクロウのいる暮らしに憧れリサーチしたこともあるが、世話の難易度が高すぎることと、営業ゆえ出張もあることを鑑み、断念。写真は東京のフクロウカフェで撮影したもの。かわいい!

3Dプリンター向けリバースエンジニアリング技術の適用例

AXION事業部 劉天陽
2025年、(株)アルモニコス入社。学生時代に日本語教員を目指したが、新たな自分に出会いたくて入社。AXION事業部にてリバースエンジニアリングソフトspScanの営業を担当。
趣味は読書とアニメ鑑賞。現在も、日本語学の学会誌や専門書を愛読書に。最近は、仕事に関連するCAD、金型の本も対象になり、新しい用語と知識に出会う日々でワクワク!アニメ鑑賞は、子供の頃に見た80~90年代の作品を再鑑賞中。アニメ技術の発展の歴史を楽しんでいる。
写真は、中国河南省、嵩山の麓に広がる世界文化遺産の史跡群を訪問した際の一枚。中心的存在として知られる少林寺にも足を運んだ。